北アフリカ、地中海の南岸に広がるチュニジア。この豊かな農業国家は、約2,500年にわたりオリーブと共に歩んできました。古代カルタゴ人がこの地にオリーブを根付かせたのが始まりとされ、 その後ローマ時代には、皇帝自らが未開の地にオリーブ果樹園を拓いた農民に褒賞を与える法を設け、この作物の栽培を奨励しました。チュニジアのオリーブオイルは、単なる食材ではなく、文明の発展と富の象徴でもありました。 7世紀の地理学者・イブン・アブド・ハケムが記録した逸話がそれを物語ります。ローマ都市スベイトラを征服したアラブの将軍が、市民たちの豊かさに驚き、その源を尋ねると、人々は静かに一粒のオリーブを差し出して言いました。 「これこそが、私たちの富の源です。」この言葉には、オリーブがいかに深く生活と歴史に根ざしていたかが凝縮されています。
チュニジア中部・ラ・シェッバ(旧ジャスティニアノポリス)から出土した2世紀のローマ時代のモザイクには、オリーブの収穫に従事する農民の姿が生き生きと描かれています。バルド国立博物館に所蔵されるこの作品は、当時すでに確立されたオリーブ文化と、その重要性を今に伝える貴重な証言です。
オリーブの木は、チュニジアの大地に深く根を張り、ただの農産物ではなく、人々の暮らしと地域社会を支える存在として、特別な役割を果たしています。チュニジアにおいてオリーブ栽培は、地方経済の基幹産業であり、過疎化の防止や都市部への過度な人口集中を抑制する役割も担っています。広大なオリーブ畑は、年間5,000万日の雇用機会を生み出し、農村地域の暮らしを安定させる原動力となっています。 また、チュニジアのオリーブオイルは、同国の農産物輸出の50%以上を占める基幹輸出品。国際市場においても高い評価を得ており、チュニジア経済の持続的発展を支える柱となっています。さらに環境面においても、オリーブの木は土壌の浸食を防ぎ、砂漠化を抑制する自然の防壁としての機能を果たしています。乾燥した気候にも耐え、強くたくましく根を張るオリーブは、まさにこの国の未来と調和する「持続可能な農業」の象徴です。 現在、チュニジアのオリーブ栽培面積は180万ヘクタール超。これは世界全体の約20%を占め、国土の34%、農地の57%、樹木農地の79%におよびます。まさに国家の風土と文化の中心に、オリーブが息づいているのです。
チュニジアでは、灌漑に頼らず降水量に応じた栽培密度でオリーブを育てる、自然に寄り添う農法が主流です。乾燥地農法の特性により、地中海ミバエの発生が極めて少なく、農薬に頼らない持続可能な栽培が可能となっています。現在、26万ヘクタール以上のオリーブ畑が有機認証を取得し、これは国内の有機農地の93%を占める規模。イタリアやスペインを上回る、世界最大級の有機オリーブ農園面積を誇ります。気候と知恵に根ざしたこの農法こそが、チュニジアの“サスティナブル・アグリカルチャー”の真髄です。
チュニジアの高品質なエクストラバージンオリーブオイルの多くは、今なお手摘み収穫によって生み出されています。これは、機械による衝撃や傷を避け、果実の鮮度と風味を最大限に守るためのこだわり。特に農村部では、このオリーブの収穫作業が女性たちの季節労働としての重要な雇用機会となっています。国際オリーブ協会(IOC)や国連食糧農業機関(FAO)も、チュニジアにおけるオリーブ収穫に女性が中心的に関わっていることを公式に認めており、これは国際的にも注目されるモデルケースとなっています。夜明けとともに畑に入り、布の上に落とされた実を拾い、枝を丁寧に手でしごいて収穫する。こうした伝統的な手作業は、オリーブの損傷を最小限にとどめ、まさに“人の手による芸術”として、高級オイルの製造には欠かせない工程となっています。
一部の生産者は、女性労働者に対し男性と同等の賃金を支払う制度を導入しており、これはチュニジア国内でも先進的かつ注目される取り組みです。繊細な手仕事と真摯な労働倫理に支えられた、チュニジアのオリーブオイルづくり。その背景には、伝統を守り、次世代へと継承する人々の誇りと情熱があります。
チュニジアは、2023?2024年において世界第4位のオリーブオイル生産国(約20万トン)。スペイン、イタリア、トルコに続く存在として、着実な地位を築いています。注目すべきはその輸出実績。世界市場における輸出量では、スペインに次いで第2位という圧倒的な規模を記録。とくにイタリアでは、高級ブレンドオイルの原料として絶大な信頼を得ています。国際輸出の約91%がEU向け、そして近年はアメリカ市場でも輸入量の約12%を占めるまでに拡大。豊かな味わいと持続可能な背景が、健康志向の消費者から高く評価されています。
かつてオリーブオイルに馴染みが薄かった湾岸諸国??サウジアラビア、UAE、カタール、バーレーン、オマーン、イエメンなどでも、健康志向の高まりとともにチュニジア産の需要が急増しています。また、モロッコ、シリア、ヨルダンといった他の生産国においても、国内供給が不足する年にはチュニジア産が代替供給源として選ばれるなど、その信頼性と供給力の高さが世界中で評価されています。
チュニジアは、北から南、東から西まで国土のすみずみにオリーブが根づく、世界でも稀有なオリーブ王国。北部や中部では、オリーブは穀物、柑橘、ブドウ、アーモンドといった一年生作物と共存し、南部では、オリーブ単一栽培が乾いた大地を緑で彩ります。古代からアフリカ・オリエント・ヨーロッパを結ぶ交易の十字路であったチュニジアには、アンダルシアから伝わった文化や知識、そしてオリーブの遺伝的多様性ももたらされました。現在でも、全国に数百種を超える固有系統が存在し、その中でも際立って多く栽培されているのが、次の2品種です。
温暖な沿岸地域を中心に栽培され、国内の栽培面積の85%以上を占める代表格。やわらかな口当たりと、トマトを思わせるまろやかな風味が特徴です。フルーティでクセがなく、幅広い料理に合わせやすいため、初心者からグルメまで幅広く愛されています。
北部の山岳地帯に育つ、力強く個性的な品種。青々とした青草の香りと、しっかりとした辛み、そして高いポリフェノール含有量による深い余韻が魅力。健康志向の方や、しっかりとした味わいを求める方に最適です。
チュニジアは、国際オリーブ協会(IOC)に加盟しており、その厳格な品質基準と分析法に基づいた製品検査を行っています。世界市場において信頼されるチュニジア産オリーブオイルの品質は、単なる風味や香りだけでなく、科学的根拠によって裏付けられた確かさに支えられています。
1962年に設立された 国家オリーブ油局(Office National de l’Huile, ONH) は、チュニジア農業省の監督下にある公的機関です。この機関は、以下のようにチュニジアのオリーブ産業をトータルに支えています
・搾油所への技術支援・品質管理
・包装・輸出支援および市場分析
・IOC基準に準拠した品質検査
・農業者への栽培指導と研修
・x研究開発を通じた生産性向上
生産から輸出に至るまで、産業の上流から下流までを包括的に監督・支援。その結果として、チュニジア産オリーブオイルは国内外で高く評価され、消費者に「安心」と「信頼」を届け続けています。
チュニジア北東部・ザグアン地方に位置するBIOLIVE COMPANYが運営するSegermes(セジェルメス)。総面積300ヘクタール、約15,000本のオリーブが植えられたこの農園は、かつて同地に存在した古代ローマ都市「Segermes」の名を受け継いでいます。 敷地内には、6世紀のビザンティン時代に建てられた教会や洗礼堂が今なお残り、その栄光の歴史を物語っています。しかし、この地の物語はそれだけでは終わりません。セジェルメスは、古代ローマ時代から続くオリーブ文化と深く結びついた土地であり、時代を越えてこの地域全体の繁栄と発展に貢献してきました。
フランスのパリ・ドーフィーヌ大学で学び、フランス国内で長くキャリアを積んだのち、父親からセジェルメス農園を継承したのが、現オーナーのMonsieur Mounir Boussetta ムニール・ブセッタ氏。彼は、幼少期の記憶と大地への深い愛情に導かれ、代々続く家族のオリーブ園を再興する決意を固めました。オリーブに対する真摯な姿勢から、彼は完全自社生産の搾油所を新設。そこには、最新の2段階圧搾機、貯蔵エリア、瓶詰ライン、そして専用の品質管理ラボまで完備されています。
キーワードはただ一つ品質です。また、彼はこの素晴らしい場所を人々と分かち合いたいと願い、建築物の上階には山々を見渡せる試飲ルームを設け、情熱的なオリーブオイルの世界を訪問者に紹介しています。
「オリーブオイルを愛する皆様、ぜひ私たちの農園へお越しください。木から瓶まで、すべての工程をご覧いただけることを誇りに思います。」
ムニール・ブセッタ氏(Segermes代表・生産者)
有機認証(EU Organic)・USDA Organic(アメリカ農務省)・ABマーク(フランス有機農産物認証)・コーシャ認証(Kosher)
セジェルメスでは、地域の女性たちによってすべて手摘みで収穫が行われています。そして彼女たちは、男性と同様の平等な賃金を受け取っています。
オリーブは収穫後すぐに搾油されることで、その香り・風味・栄養価を最大限に保持。搾油は、25℃の低温遠心分離法(コールドプレス)で行われ、得られたフレッシュなオイルは濾過後、温度管理されたステンレスタンクで保管されます。農園には、シェトゥイ(Chetoui)およびシェムラリ(Chemlali)という、チュニジアを代表する品種のオリーブが育ち、中には200年を超える樹齢のものも存在します。
オイルだけでなく、テーブルオリーブも多様なチュニジア在来品種、フランスの在来品種を展開
・メスキ(Meski)
・ベベッシ(Bebessi)
・マルサリン(Marsaline)
・ピシュリーヌ(Pichouline)
・ルッカ(Lucqua)
オリーブは収穫後すぐに搾油されることで、その香り・風味・栄養価を最大限に保持。搾油は、25℃の低温遠心分離法(コールドプレス)で行われ、得られたフレッシュなオイルは濾過後、温度管理されたステンレスタンクで保管されます。農園には、シェトゥイ(Chetoui)およびシェムラリ(Chemlali)という、チュニジアを代表する品種のオリーブが育ち、中には200年を超える樹齢のものも存在します。